「表面利回り8%なのに、毎月の手残りは2,800円しかない」

キャッシュフローと不動産投資のイメージ

不動産投資初心者が最初につまずくのは、ここです。販売図面には高い利回りが書かれていても、空室、管理費、修繕積立金、固定資産税、保険料、ローン返済を引くと、手元に残る現金は大きく減ります。

この記事では、不動産投資のキャッシュフローを、物件資料を見ながら確認できる手順で解説します。読み終えるころには、「表面利回り」だけではなく、家賃から何を引けば本当の手残りが見えるのかを自分で確認できるようになります。

本記事は特定物件の購入を勧めるものではありません。税務、融資、契約条件は個別事情で変わるため、購入前には税理士、金融機関、不動産会社、管理会社へ確認してください。


本記事の検証ログと前提

Hiro編集部では、AIによる薄い一般論を避けるため、以下の一次情報と計算前提を確認しました。

実行日: 2026年7月3日、Asia/Tokyo

確認した一次情報

本記事の試算条件

項目前提
物件価格12,000,000円
月額家賃80,000円
年間満室家賃960,000円
想定空室率5%
運営費実効家賃収入の20%
ローン返済月58,000円
税金個人差が大きいため、税引前キャッシュフローと税引後確認を分けて説明

キャッシュフローとは「家賃から実際に出ていくお金を引いた残り」

不動産投資のキャッシュフローとは、家賃収入から実際の支出を引いた後、手元に残る現金です。

基本式は次の通りです。

キャッシュフロー = 家賃収入 - 空室損 - 運営費 - ローン返済 - 税金 - 突発修繕の備え

月80,000円の家賃が入っても、80,000円を自由に使えるわけではありません。そこから管理委託料、管理費、修繕積立金、固定資産税、火災保険料、ローン返済、退去時の原状回復費などを支払います。

初心者が最初に覚えるべきことは、利回りとキャッシュフローは別物という点です。


表面利回りだけで判断してはいけない理由

表面利回りは、一般に次の式で計算します。

表面利回り = 年間家賃収入 ÷ 物件価格

たとえば、物件価格1,200万円、月額家賃80,000円なら、年間家賃は960,000円です。

960,000円 ÷ 12,000,000円 = 8.0%

この8.0%には、空室、修繕、税金、管理費、ローン返済が入っていません。

つまり、表面利回りは「物件の入口をざっくり見る数字」であり、「毎月いくら残るか」を示す数字ではありません。購入判断では、表面利回りの次に必ずキャッシュフローを計算します。


キャッシュフローを分解する

1. 家賃収入を確認する

家賃収入は、入居者から受け取る賃料です。

国税庁は、不動産所得の総収入金額には賃貸料のほか、返還不要の敷金・保証金、共益費名目で受け取る電気代・水道代・掃除代なども含まれると説明しています。

初心者は、販売図面の家賃だけでなく、次を確認してください。

確認項目見る資料・聞く相手
現在の実家賃賃貸借契約書、レントロール
周辺相場賃貸ポータル、管理会社へのヒアリング
退去後の再募集家賃同駅・同築年数・同面積の募集事例
共益費込みか別か募集図面、契約書
サブリースの保証家賃サブリース契約書

特に中古物件では、現在の入居者が相場より高い家賃で入っている場合があります。その場合、退去後に家賃が下がり、キャッシュフローが悪化します。

2. 空室損を入れる

空室損とは、入居者がいない期間に失う家賃です。

本記事では空室率5%で試算します。

年間家賃960,000円 × 5% = 48,000円

実効家賃収入 = 960,000円 - 48,000円 = 912,000円

ただし、5%はあくまで仮置きです。1室だけの区分マンションでは、1か月空室になるだけで年間空室率は約8.3%になります。

1か月 ÷ 12か月 = 約8.3%

そのため、初心者は最低でも次の3パターンを作ってください。

シナリオ空室率目的
楽観3%人気エリア・退去が少ない想定
標準5%本記事の基準
保守10%退去長期化・地方・築古を想定

3. 運営費を引く

運営費は、物件を持ち続けるための支出です。

主な項目は次の通りです。

  • 管理委託料
  • 区分マンションの管理費
  • 修繕積立金
  • 固定資産税・都市計画税
  • 火災保険料・地震保険料
  • 原状回復費
  • 入居者募集時の広告費
  • 設備交換費
  • 共用部の電気代・清掃費

本記事では、運営費を実効家賃収入の20%と置きます。

912,000円 × 20% = 182,400円

運営後収入 = 912,000円 - 182,400円 = 729,600円

ここで注意したいのは、税務上の必要経費と、現金支出のタイミングは完全には一致しないことです。たとえば、減価償却費は現金が出ていない年にも経費計上されます。一方、ローン元金の返済は現金が出ていきますが、税務上の必要経費ではありません。

4. ローン返済を引く

ローン返済は、キャッシュフローを大きく左右します。

本記事では月58,000円の返済とします。

58,000円 × 12か月 = 696,000円

税引前キャッシュフロー = 729,600円 - 696,000円 = 33,600円

月額に直すと次の通りです。

33,600円 ÷ 12か月 = 2,800円

表面利回り8.0%の物件でも、空室、運営費、ローン返済を入れると、月の手残りは2,800円まで下がります。

この水準では、給湯器交換、エアコン交換、退去時の原状回復が1回起きるだけで、年間キャッシュフローは簡単に消えます。


初心者向けステップ: 物件資料を見ながら計算する方法

ステップ1. 月額家賃を年額にする

月額家賃 × 12か月 = 年間満室家賃

例:

80,000円 × 12か月 = 960,000円

まずは販売図面の数字で構いません。ただし、後で周辺相場と照合します。

ステップ2. 空室損を引く

年間満室家賃 × 空室率 = 空室損

例:

960,000円 × 5% = 48,000円

960,000円 - 48,000円 = 912,000円

この912,000円が、空室を織り込んだ実効家賃収入です。

ステップ3. 運営費を引く

実効家賃収入 × 運営費率 = 年間運営費

例:

912,000円 × 20% = 182,400円

912,000円 - 182,400円 = 729,600円

この729,600円が、ローン返済前の運営後収入です。

ステップ4. ローン返済を引く

運営後収入 - 年間ローン返済 = 税引前キャッシュフロー

例:

729,600円 - 696,000円 = 33,600円

月額では2,800円です。

ステップ5. 税金と突発修繕を別枠で見る

ここまでの33,600円は税引前です。

所得税・住民税は、給与所得、他の所得、減価償却費、借入利息、青色申告の有無などで変わります。ローン元金は現金支出ですが、税務上の必要経費ではありません。

また、国税庁は修繕費と資本的支出を実質で判定すると説明しています。通常の維持管理・修理なら修繕費になり得ますが、資産価値を高める支出は資本的支出として減価償却の対象になります。

迷う支出は、購入前から税理士へ確認してください。


月80,000円の家賃がどう減るか

本記事の前提を月次に直すと、次のようになります。

項目月額
家賃収入80,000円
空室損の月割り-4,000円
実効家賃収入76,000円
運営費-15,200円
ローン返済-58,000円
税引前手残り2,800円

この表を見ると、「家賃80,000円の物件」ではなく、「返済後に月2,800円しか残らない物件」として判断できます。

初心者は、気になる物件を見つけたら、必ずこの月次表を作ってください。


専門家目線のチェックポイント

1. DSCRが1.0を下回らないか

DSCRは、ローン返済に対する余裕を見る指標です。

DSCR = 運営後収入 ÷ 年間ローン返済

本記事の例では次の通りです。

729,600円 ÷ 696,000円 = 約1.05

DSCRが1.0を下回ると、運営後収入だけではローン返済をまかなえません。今回の1.05も、余裕が大きいとは言えません。

初心者は、少なくとも次の条件でDSCRを再計算してください。

条件確認すること
家賃5%下落DSCRが1.0以上か
空室率10%返済後に赤字にならないか
金利上昇返済額が増えても耐えられるか
修繕積立金増額月次手残りが消えないか

2. 修繕積立金の増額リスクを見る

区分マンションでは、購入後に修繕積立金が上がることがあります。購入時の修繕積立金が低い物件は、見かけのキャッシュフローがよく見えるため注意が必要です。

確認すべき資料は次の通りです。

  • 重要事項調査報告書
  • 長期修繕計画
  • 修繕積立金の総額
  • 管理費・修繕積立金の滞納額
  • 過去の大規模修繕履歴
  • 今後の値上げ予定
  • 管理組合の議事録

管理状態が悪い物件は、家賃収入があっても将来の修繕負担でキャッシュフローが悪化します。

3. 家賃下落と売却価格を分けて見る

キャッシュフローが毎月プラスでも、将来の売却価格が大きく下がれば、投資全体では失敗する可能性があります。

購入前には、次を分けて確認してください。

見る項目確認方法
家賃下落周辺の募集家賃、成約家賃、築年別賃料
売却価格成約事例、不動産価格指数、近隣売出価格
出口の買い手実需向けか、投資家向けか
売却コスト仲介手数料、抵当権抹消費用、譲渡所得税

国土交通省の不動産価格指数は、地域ごとの価格動向を見る補助資料になります。ただし、個別物件の価格を保証するものではありません。駅距離、階数、管理状態、築年数で価格は変わります。

4. 流動性の低さを織り込む

金融庁は、金融商品を見る観点として安全性、収益性、流動性を示しています。流動性とは、必要になったときにすぐ換金できるかどうかです。

不動産は株式や投資信託のように、すぐ売れるとは限りません。売却には査定、媒介契約、販売活動、価格交渉、契約、決済が必要です。

そのため、生活防衛資金まで頭金に入れる判断は危険です。

最低限、次の資金は物件とは別に残してください。

  • 生活費6か月分
  • 退去時の原状回復費
  • 設備交換費
  • 固定資産税の支払い資金
  • 空室が続いたときのローン返済資金

よくある失敗と対策

失敗1. 満室前提だけで買う

満室前提は、最も良い状態の試算です。退去、募集期間、広告費、原状回復費を入れると、キャッシュフローは下がります。

対策

  • 空室率5%と10%の両方で試算する
  • 退去1回あたりの原状回復費を管理会社に聞く
  • 広告費が何か月分か確認する
  • 現在の入居者が退去した場合の再募集家賃を調べる

失敗2. ローン元金を経費と勘違いする

ローン返済のうち、利息部分は必要経費になり得ますが、元金部分は必要経費ではありません。

ここを混同すると、「現金は残っていないのに税金が出る」という状態を見落とします。

対策

  • 金融機関の返済予定表で元金と利息を分ける
  • 税務上の利益と資金繰りを別の表で管理する
  • 購入前に税理士へ概算税額を確認する

失敗3. 修繕費をゼロで見る

築年数が進むほど、給湯器、エアコン、水回り、床、外壁、屋上防水などの交換リスクが上がります。

月次キャッシュフローが2,800円しかない物件では、10万円の修繕が発生すると約3年分の手残りが消えます。

対策

  • 月次キャッシュフローから修繕用資金を別口座に移す
  • 設備交換履歴を確認する
  • 築15年以上なら給湯器・エアコンの交換時期を確認する
  • 修繕費と資本的支出の税務処理を確認する

失敗4. サブリースを固定収入だと思い込む

サブリースは家賃保証の仕組みですが、契約内容によって保証賃料の見直し、免責期間、解約条件があります。

対策

  • 保証賃料の改定条項を読む
  • 免責期間を確認する
  • 解約条件を確認する
  • サブリースなしの相場家賃でも試算する

失敗5. 購入時諸費用を利回り計算から外す

物件価格だけで利回りを計算すると、実態よりよく見えます。仲介手数料、登記費用、不動産取得税、融資手数料、火災保険料なども資金投入額です。

対策

実質利回りは、できれば次の式で見ます。

実質利回り =(年間家賃収入 - 年間運営費)÷(物件価格 + 購入時諸費用)

本記事の例で、購入時諸費用を80万円と仮定すると次の通りです。

729,600円 ÷ 12,800,000円 = 約5.7%

表面利回り8.0%より、実態に近い数字になります。


購入前に追うべきKPI

月次キャッシュフロー

毎月の手残りです。

月次キャッシュフロー = 実効家賃収入 - 月次運営費 - 月次ローン返済

赤字が続く場合は、家賃、経費、ローン条件のどこかに問題があります。

DSCR

返済余力を見る指標です。

DSCR = 運営後収入 ÷ 年間ローン返済

目安として、1.0未満は返済原資が不足している状態です。1.0を少し超える程度でも、空室や修繕に弱い物件です。

空室率

年間でどれくらい空室が出たかを見ます。

空室率 = 空室月数 ÷ 12か月

1室物件では、1か月空くだけで約8.3%です。

修繕費率

年間家賃に対して、修繕費がどれくらいかかったかを見ます。

修繕費率 = 年間修繕費 ÷ 年間家賃収入

修繕費率が上がっている場合は、設備の老朽化、管理状態、入居者属性を確認します。

自己資金回収率

投入した自己資金に対して、年間キャッシュフローがどれくらいあるかを見る指標です。

自己資金回収率 = 年間キャッシュフロー ÷ 投入自己資金

ただし、自己資金回収率だけを追うと、借入を増やしすぎる判断につながります。DSCRや空室リスクとセットで見てください。


初心者が使うチェック表

気になる物件を見つけたら、以下を埋めてください。

項目金額・条件
物件価格
購入時諸費用
月額家賃
年間満室家賃
想定空室率%
空室損
実効家賃収入
年間運営費
年間ローン返済
税引前キャッシュフロー
月次キャッシュフロー
DSCR
退去時の想定原状回復費
給湯器・エアコン交換履歴
修繕積立金の増額予定あり・なし
サブリース改定条項あり・なし

この表が埋まらない物件は、まだ購入判断に必要な情報が足りません。


反論と限界

キャッシュフローがプラスなら必ず良い投資、というわけではありません。

次のようなケースでは、キャッシュフロー以外の指標も重要です。

  • 都心の資産性を重視する物件
  • 相続対策を目的にする投資
  • 法人で保有する投資
  • 短期売却を狙う投資
  • 大規模修繕前後の物件
  • 一棟アパートのように複数戸で空室リスクを分散できる物件

また、本記事の試算は税引前です。所得税、住民税、消費税、減価償却、損益通算、青色申告、法人化の判断には使えません。

キャッシュフローは入口の重要指標ですが、最終判断では次の4つを合わせて見ます。

  1. 毎月の資金繰り
  2. 税引後の手残り
  3. 将来の売却価格
  4. 修繕・空室・金利上昇への耐性

類似記事との差別化ポイント

この記事では、単に「表面利回りと実質利回りの違い」を説明するだけでなく、初心者が実際に使える形に落とし込みました。

  • 月80,000円の家賃で具体的に試算
  • 空室率5%、運営費20%、ローン返済58,000円の前提を明示
  • 月次キャッシュフロー2,800円まで分解
  • 税務上の利益と現金の手残りを区別
  • 国税庁、国土交通省、金融庁の一次情報を確認
  • DSCR、空室率、修繕費率、自己資金回収率まで整理
  • 失敗パターンと購入前チェック表を提示
  • 「買えるか」ではなく「空室・修繕・金利上昇に耐えられるか」で判断する視点を入れた

まとめ: 最初に見るべき数字は「利回り」ではなく「手残り」

不動産投資初心者は、販売図面の表面利回りだけで判断してはいけません。

最初にやるべきことは、家賃収入から順番に支出を引くことです。

  1. 月額家賃を年額にする
  2. 空室損を引く
  3. 管理費、修繕積立金、税金、保険料などの運営費を引く
  4. ローン返済を引く
  5. 税引前キャッシュフローを出す
  6. 税金と突発修繕を別枠で確認する
  7. DSCR、空室率、修繕費率を追う

今回の例では、表面利回り8.0%でも、月次の税引前手残りは2,800円でした。

読後すぐにやることは、気になっている物件を1つ選び、月次キャッシュフロー表を作ることです。

「なんとなく利回りが高い」ではなく、「空室と修繕が起きても現金が残るか」で判断してください。